大学とは何か
「大学とは何か 」吉見俊哉 (著) (岩波新書)
中世の大学の誕生から、19世紀のドイツ、20世紀の米国で進められた大学の変遷と明治維新後の日本での大学の誕生と国立大学の法人化までを俯瞰されています。
日本では
「19世紀半ばの江戸や大坂、長崎などの都市で生じていた現象は、「自由に浮動する」知識人=志士たちが列島を旅しながら有力な教師について翻訳された知識を必死で学び、その外来の知の普遍性によって旧套打破を図っていこうとする、中世ヨーロッパの大学勃興期にも似た出来事」があり、「日本の大学教育のなかで、私学の伝統が国家の後押しを受けてきた官学を凌駕する力強さをもっているのだとするなら、それはこうした幕末の草のネットワークと近代知が結ばれていった場が、まさしく日本の私学の根源にある限りにおいてであろう」。
「近代日本の大学で重要なことは、最初に帝国大学ができて、それに続いて慶應義塾をはじめとする私学ができたわけではないことである。順番はむしろ逆で、維新期における旧士族の危機感を背景にした私塾の興隆がまずあり、そのような草 の知が自由民権運動に結びついていくことに対する危機感が、帝大創設を促していった。」
この先の大学の在り方については
「私たちの時代は16世紀に似ていなくもない。時代が中世から近代へと向かったあの時代、新しい印刷技術が爆発的に普及し、それまでの都市秩序がより大きな領邦秩序に吞みこまれていくなかで大学は衰退した。ところが今、やはりデジタル技術の爆発のなかで地球大の秩序が国民的な秩序を吞みこみながらも、時代はむしろ近代からより中世的な様相を帯びた世界に向かっている。」
と書かれておりまますが、コロナ禍がペスト同様にもたらす人類への影響も含めて、良い意味での中世的な学問の世界への回帰には共鳴します。昔から学問には国境なくもはや英語は現代のラテン語になったのだと言えます。
オックスフォード大学もここ30年でも大きく変化しており、伝統を守りながら変わり続けられる事が生き残る為にも大事なのだと痛感する所。
著者は「大学は「エクセレンス」と同時に「自由」の空間を創出し続けなければならない。」と結びますが、「自由」であることが良い研究や学問の為に何よりも大事なのだと思います。
尚、本書では触れられてないのですが、1970年代頃から米国で形成された大学とイノベーションとの関係は大きなテーマで、その中でベンチャーキャピタルは中核的な役割を果たしました。